マキさんへの手紙

マキさん

 

昨日はありがとうございました。

あんなところに、あんな喫茶店があるなんて知らなかった。

あの曲も家で聴くのとは別物に聴こえました。

音量のおかげかな、本当に胸に迫ってきて、正直、泣きそうになりました(いや、涙ぐんでました)

うまくお話できなかったこと、手紙なら書ける気がするのでちょっと試しに書いてみます。

 

僕があの絵を初めて観たのは、NHK特集でだったんです。

あのひとが、去年、亡くなったときも大きなニュースになっていたし、

現代作家として、ネームバリューもあったし、存在は知っていました。

エイズが原因で亡くなったこともスキャンダラスに報じられていたし、

同性愛を公言しているのも、よく知られていましたし。

先に、そういう情報に触れていたので、僕は、逆に興味を失っていて、

自分からあのひとの絵を観たいとは、思っていなかったんです。

 

マキさんは、知っていると思いますが、ロックを聴くひとなら、

名前ぐらいは知っている有名なクラブがニューヨークにありますよね。

あのひとは、そのクラブの内装を手がけていたらしいんです。

耽美っぽい装飾とか、SM趣味の写真とか絵とか、飾ってあって。

パンクやニューウェーブのアーティストが多く出演するそのクラブは、

70年代中盤から、アートや音楽のアヴァンギャルドなひと達の聖地となっていたらしかったんです。

あのひとの、伝説的な作品に"NY.UG.LIFE(ニューヨーク.アンダーグランド.ライフ)"というものがあって、

僕は、それを写真で見ましたが、しばらくは、もようした吐き気が消えませんでした。

そのクラブの正面の壁に、ドス黒い血のような赤で、自由の女神像の頭部が描かれているものだったんですが、

その赤色は、まさに、血だったんです。

ニューヨークの下水道から捕まえてこられたドブネズミを壁に叩きつけて殺し、

その血で描かれた自由の女神だったんです。

あのひとは、なにかのインタビューでその伝説は本当かと聞かれたとき、逆に、インタビュアーに聞き返したらしいんですよね。

「何匹、壁に叩き付けたとおもう?描くよりそっちが大変だったよ」と。

その話は、とても印象的で何かと思い出していたんですが、NHK特集を観るまでは、あの絵も知らなかったんです。

不思議なことにあの絵を観る前の日の出来事だったんです。

(2枚目につづく)