2018-10-01から1ヶ月間の記事一覧

日曜の朝

「電話よ、優一」という母親の声で、優一は目を覚ました。 カーテンから差し込む光が、朝のものだとすぐにわかった。 時計をみると、すでに授業の始まる時間だったので、一瞬あせったが、 今日は日曜だとすぐに気づいた。 「優一、川本さんから電話よ」母親…

再会のイディア

優一は、イディアを何事もなく、家に持ち帰ることができた。 朝の美術室には、思ったとおり、顧問の安岡はいなかったし誰もいなかった。 誰に見られることもなく、絵の入った筒をピックアップできた。 筒を一日、学校指定のナップサックに入れておいたが、優…

由香子からの電話

優一が家に帰ったのは、深夜0時を過ぎてからだった。 郊外の住宅街は、静まりかえっていて、点々と灯る街灯が別の惑星の景色のように冷たい。 自転車を家の玄関に止めているとき、パトロールの自転車のお巡りさんが、通り過ぎて行った。 鍵を開けて、家に入…

もし僕が、いい奴だったら

純也の家は、優一の家の近所にある。 ふたりは、中学からの同級生で同じ学区に住んでいた。 優一は、自転車で自分の家を通り過ぎた。 自分の家の2ブロック先に純也の家がある。 優一の家は、ごくごく普通の民家。 1階の居間とダイニングキッチンに灯りがとも…

放課後の美術室

美術顧問の安岡は、30代後半くらいで、優一の両親と同世代だと思われた。 60年代や70年代のカウンターカルチャーについて、語ることが多かった。 美術教師だからか、やはり他の教師とは違っていて、部活動に関しても、あまり指図されることはなかった。 「昨…

マキさんへの手紙(3枚目)

その画家の元恋人のイディアの肖像画だったんです。 それは、ふたりが一時期、NYのチェルシーホテルに同棲していたときの作品なんです。 前日みたNHK特集でそのエピソードが語られていいました。 ふたりは、NYで出会い、愛し合い、生活を共にしていたんです…