「電話よ、優一」という母親の声で、優一は目を覚ました。 カーテンから差し込む光が、朝のものだとすぐにわかった。 時計をみると、すでに授業の始まる時間だったので、一瞬あせったが、 今日は日曜だとすぐに気づいた。 「優一、川本さんから電話よ」母親…
優一は、イディアを何事もなく、家に持ち帰ることができた。 朝の美術室には、思ったとおり、顧問の安岡はいなかったし誰もいなかった。 誰に見られることもなく、絵の入った筒をピックアップできた。 筒を一日、学校指定のナップサックに入れておいたが、優…
優一が家に帰ったのは、深夜0時を過ぎてからだった。 郊外の住宅街は、静まりかえっていて、点々と灯る街灯が別の惑星の景色のように冷たい。 自転車を家の玄関に止めているとき、パトロールの自転車のお巡りさんが、通り過ぎて行った。 鍵を開けて、家に入…
純也の家は、優一の家の近所にある。 ふたりは、中学からの同級生で同じ学区に住んでいた。 優一は、自転車で自分の家を通り過ぎた。 自分の家の2ブロック先に純也の家がある。 優一の家は、ごくごく普通の民家。 1階の居間とダイニングキッチンに灯りがとも…
美術顧問の安岡は、30代後半くらいで、優一の両親と同世代だと思われた。 60年代や70年代のカウンターカルチャーについて、語ることが多かった。 美術教師だからか、やはり他の教師とは違っていて、部活動に関しても、あまり指図されることはなかった。 「昨…
その画家の元恋人のイディアの肖像画だったんです。 それは、ふたりが一時期、NYのチェルシーホテルに同棲していたときの作品なんです。 前日みたNHK特集でそのエピソードが語られていいました。 ふたりは、NYで出会い、愛し合い、生活を共にしていたんです…
〜あらすじ〜 時は80年代後半、純也と優一は北陸の高校2年生。 美術部の優一は、偶然、校長室で見た女性像絵画に心奪われてしまう。 純也の共謀して、その絵を盗み出す事に。 そして、それは成功したのだけれど、物語は意外な展開に。 10代男子が、苦悶しつ…
〜あらすじ〜 時は80年代後半、純也と優一は北陸の高校2年生。 美術部の優一は、偶然、校長室で見た女性像絵画に心奪われてしまう。 純也の共謀して、その絵を盗み出す事に。 そして、それは成功したのだけれど、物語は意外な展開に。 10代男子が、苦悶しつ…
絵は、A3サイズ程の大きさで、ソファに飛び乗った純也がヒョいと壁から外した。 額は、既製品の無印良品かどこかの簡単な額で、すぐに開けることができて、 ナップサックに開けるための工具やらを用意してきた優一は拍子抜けした。 「なんだよ、重かったのに…
校長室の僕が校長室に呼ばれたのは、数学で悪い点を採ったからでした。 センター試験を受けるために、文系の僕も数学は必須科目で、その担任が校長だったんです。 もとから、数学が嫌いでいやいや勉強していたんですが、でも、親に家庭教師まで付けてもらっ…
目当ての筒を持って美術室の引き戸を開けたら、廊下の窓のオレンジの光線は強くなっていた。 朝の空気が満ちている。 澄みわたった空が窓の外に広がり、気持ちも明るくなる。 純也は、筒を脇に挟んで、小声でいった。 「さぁ、校長室へいこう」 朝日に照らさ…
マキさん 昨日はありがとうございました。 あんなところに、あんな喫茶店があるなんて知らなかった。 あの曲も家で聴くのとは別物に聴こえました。 音量のおかげかな、本当に胸に迫ってきて、正直、泣きそうになりました(いや、涙ぐんでました) うまくお話…
その日の朝、ふたりは始発電車が動く前には、自転車をこいでいた。 北陸の空は光を吸い込むようなグレイの画用紙のようだ。 国道沿いを走る二台の自転車は、人気のない歩道を我が物顔に、だけど音を立てない。 国道には、猛スピードのトラックが時折、自転車…