失敗と後悔
〜あらすじ〜 時は80年代後半、純也と優一は北陸の高校2年生。 美術部の優一は、偶然、校長室で見た女性像絵画に心奪われてしまう。 純也の共謀して、その絵を盗み出す事に。 そして、それは成功したのだけれど、物語は意外な展開に。 10代男子が、苦悶しつつも、友達や周りの大人たちに身も守られ、成長していくストーリー。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
純也が公園の中央にある時計を見上げると、ちょうど7時半だった。
「窓はまずいな、あせっていたからな、オレたち」
さすがの純也も、深刻な顔になった。
それを見て、優一も、さらに青い顔になった。
「侵入はバレても、オレたちの証拠はない、大丈夫」
「盗まれたり、なくなったりしたものも、ないから」
と、純也は無理に元気な声で自分に言い聞かせる様に言った。
「いや、普通、無くなったものがないか、部屋を詳しく調べるだろう、そしたら、あの絵に気づく、絶対に気づくよ」
優一は、今にも泣きそうな声で言った。
「なんな、ヘタくそな模造、すぐバレるって、バレるバレる絶対」
「でもさ、こんなところで、あーだこーだ言っていてもしょうがないだろ」
「あとさ、物事には絶対はない」
純也は、少しイライラした口調で言った。
「いまさらどうしようもない、夜、オレんちで話そう」
「今日は、予定とどおり、自然にいつも通り登校して、過ごそう、優一、あくまでも自然にな、無理かもしれないけど、自然に」
「なぁ、とりあえず笑えよ、優一、死人みたいな顔だぞ」と言っている純也の顔が全く笑っていなかった。
いつもどおり教室に入り、いつもどおり授業を受けていたが、
優一は、いつ校長室の侵入事件の話が、クラス担任から切り出されるか、気が気でなかった。
別のクラスの純也とも、廊下ですれ違うとどこかぎこちなく意識してしまい、不自然になってしまった。
結局、校長室侵入の話は、誰からもされることがなく何事も起こらず、放課後になった。
優一は、当然のことながら、心身ともにぐったりとしてしまい、
授業中も休み時間もこんなことなら、あんなことをしなければよかったと後悔ばかり考えてしまっていた。
そんなことなので、疲れきってしまっているので、放課後はまっすぐ帰宅したかったのだけれど、
普段どおりを演出するため、美術室に向かった。
朝の美術室とは違い、西側の窓からは、朝とは違うオレンジの光りが差し込んでした。
朝の散らかってい絵具は、片付けられていて、あのサイケな絵も見あたらなかった。
優一が朝からずっと緊張していたのは、窓の失態のせいだけではなかった。
校長室から、盗み出した絵を入れた筒をナップサックに持っていたからだった。
誰かにそれを見せてといわれないかと、ドキドキして一日を過ごしていたのだった。
そんなことの可能性は、ほぼ0%なのは、心配性の優一でも理性で十分、分かったいたのだが、
どうしても盗んだ絵を持っていることが、激烈な緊張になっていた。
美術室には、誰もいなかった。
優一は、早く盗んだ絵を手放したくで、いつも放課後は、教室でクラスメートとくだらない話しなどして、
ダラダラと過ごすのだが、今日は終業のベルが鳴ると、一目散に美術室に向かって走ったのだった。
誰も来ないうちに、絵を手放したかったからだ。
美実室のドアを開けると、案の定、部屋には誰もいなかった。
優一は、まっすぐ美術準備室に向い、朝、抜いた筒を同じ場所に戻した。
一日感じていた緊張がユルユルと紐がほどけるように解けて、やっとホッとした気持ちになった。
そのとき突然、準備室の奥から、声がした。
「あれ、優一、今日は早いな」
「ワァッ」と優一は、思わず大きな声をあげてしまった。
「おいおい、そんなに驚くこともないだろう、オバケじゃないぞ」と美術部顧問の安岡が、
準備室の奥の物置と化している作業机の何段にも積み重ねられた段ボールの陰からから顔を出した。