ミッション完了?

絵は、A3サイズ程の大きさで、ソファに飛び乗った純也がヒョいと壁から外した。

額は、既製品の無印良品かどこかの簡単な額で、すぐに開けることができて、 ナップサックに開けるための工具やらを用意してきた優一は拍子抜けした。

「なんだよ、重かったのにな」 「ささ、いまからが本番」

額から絵を抜いてた 純也が無造作に、わら半紙を扱うように丸めようとするので、 思わず、優一は、大きな声をだした。

「おい、おい!やめろよ!!」

普段、感情を露にしない優一の大声に純也はびっくりした。

「静かにしろよ、あいちゃん来るだろ」 「あ、ごめん、絵、こっちに貸して」

優一は、子猫を受け取るような手つきでそっと絵を手の平に乗せた。

純也は、その様子を感心するような、少し驚くような顔で眺めながら、 「はやく、差し替えよう」と言った。

純也は、美術準備室から持ってきた筒をあけて、入っていた絵を取り出した。

さっきとは、打って変わって、うやうやしいくらいの手つきで絵を扱った。

優一は、クスッと「それ、オレの絵だから、そんな丁寧じゃななくていいいよ」笑った。

「絵画に貴賤なし」純也は、ワザといかめしい顔で言った。

今、額から外した絵と、筒から出した優一の絵を見比べた。

優一は見るからにナーバスになっていて、顔がこわばっている。

「ぜんぜん、ダメだ、これじゃ、バレてしまう」 「線の強さも、勢いもぜんぜん違う」 「やめよう、やめよう、無理無理、これは無理だよ」

優一は、ちょっとしたパニック状態になっていた。

純也は、逆に落ち着いていた。 「オレには違いが全くわからないけどな」 「スケールもあっているし」 「紙の質が違うくらいだよ、本物の方が劣化しているかんじ」 「それも額に入れちゃえば、わからないって」 「だいたい、この応接にくる奴らに、絵がわかる奴なんていないさ」

まだ、パニックで茫然自失となっている優一を尻目に、純也は作業を始めた。

本物を絵をトレーシングペーパーに被おって、うやうやしい手つきで空っぽになった筒に入れて、 筒から出した、優一が描いた贋作を額にいれ、壁に飾った。

ふたりは、それを見上げた。 純也は、満足そうに、「ぜんぜん大丈夫」といい。 優一は、なにも言わず、不安そうな顔をしていた。 「ミッション完了」と純也が言った瞬間、ガチャガチャという音がした。校長室のドアに鍵が差し込まれる音がした。