マキさんへの手紙(2枚目)
校長室の僕が校長室に呼ばれたのは、数学で悪い点を採ったからでした。
センター試験を受けるために、文系の僕も数学は必須科目で、その担任が校長だったんです。
もとから、数学が嫌いでいやいや勉強していたんですが、でも、親に家庭教師まで付けてもらって、勉強していたんです。
だけど、ぜんぜんダメだった。
あんまりのも悪い点数なんで、個人的に校長室に呼ばれてしまったんです。
「あんな点数で、あんのつもりなのか、君は」
校長室に呼ばれて、ドアをノックするとき程、鬱々とした気分は初めてでした。
悪い点の自分を責める気持ちと、こんな自分がこの先、受験や、大げさに言うと将来を切り開いて行くことができるか、
なんだか絶望的な気分で、いまここからいなくなりないそんな気持ちでいっぱいだったんです。
校長は、風邪なのか終止、鼻声で説教を続け、僕はただ話を聞くだけ。
校長室の奥にある応接室は、小さな窓があるだけで、こんな状況じゃなくも息がつまるような場所でした。
校長の話は、至極真っ当な常識的な話で、いま点数を立て直さないと、現役での合格は不可能だと繰り返し言っていました。
いや、長い経験上、君は合格無理だね、と。
”はい、そのとおりです”とながら、うつむいて話を聞いていました。
そのとき、電話のベルがなり、ちょっと待ってと、校長は、応接をでて、隣の執務室に向かって立ち上がりました。
校長の座っていた、ソファの背もたれのちょうど真後ろ、白い木の枠の額がかけてありました。
その中の絵を見て、僕はびっくりしたんです。
前日、NHK特集で見た絵が飾ってあったからです。
いや、実際は同じ絵ではなく、テレビで紹介されている絵は着色されていましたが、
その絵には、色は塗られていなく、その絵の習作なのか、鉛筆だけでのデッサンでした。
ただ、モチーフも構図も同じ、同じ絵柄。
隣の部屋からは、校長の鼻にかかった声が延々と続き、不快な空気が漂ってくるのですが、
その絵を見つめると、そんな気分も霧が晴れるように、心が軽やかに、胸が膨らんで、
何事もなんでもないような気分が身体中に広がってくるような感覚になってくるのでした。
絵にはひとりの女性…少女のような女性、射る様な強い目で前を見据えている。
額にはタイトルは表記はないのですが、僕は昨日のテレビで絵の題は知っていました。
”チェルーシーホテルのイディア”
その少女のような女性の名はイディア。